民間調達資金で300億円達成。「東京グリーンボンド」の舞台裏を都財務局課長が語る

2021.02.02

2020年11月26日、2017年10月の販売以来「完売のお礼」として公式Webサイトでの発表があった「東京グリーンボンド」。環境債として投資家、機関投資家からの注目度も高く、都税務局によって重要な地位を担ってきた当SDGs債権をめぐり、環境問題や民間での動向を東京都財務局主計部公債課の吉浦宏美氏のインタビューから見てみましょう。

 

「東京グリーンボンド」


(画像:民間から300億円集めた東京グリーンボンドの舞台裏|新・公民連携最前線|PPPまちづくりより抜粋)

 

グリーンボンドとは

「グリーンボンド」とは、資金使途を環境事業に限った債権(環境債)のことです。東京都は2017年度から「東京グリーンボンド」を発行し、調達した資金を自然環境の保全など環境事業に充てています。

 

発行の経緯

「東京グリーンボンド」債券発行の直接のきっかけは、2016年8月に小池百合子都政がスタートしたことです。知っての通り、2015年に国連がSDGsを採択し、2016年に「パリ協定」が発効するなど、世界で環境問題への関心は急激に高まってきています。このような事情をうけて、小池都知事は都政においても環境に焦点を当て、様々な課題の解決へと力を注ぐ方針を打ち出したのです。その施策の一つとして行われたのが、東京グリーンボンドの発行、というわけでした。

また、一般的に考えても、「グリーンボンド」の発行には「民間からの投資」を呼び込む狙いもあったと言えます。東京グリーンボンドの発行を行う中で、都民に都の施策を理解、賛同してもらい、資金提供を促すといった形で、民間投資を促すスキームとして、グリーンボンドには大きな可能性があると考えられていました。

 

前身「東京環境サポーター債」100億円分は売り出し初日に完売

東京グリーンボンドに先立って、2016年にまず「東京環境サポーター債」という名前でトライアル発行が行われました。こちらは個人向け都債でしたが、用意された100億円は売り出し初日に完売。それを受けて、2017年10月に自治体として初めて、本格的なグリーンボンドの枠組みに沿った「東京グリーンボンド」の発行に至ったのです。資金の充当先は様々ですが、例えば、「都の保有施設における太陽光パネルの設置」がその一つです。東京都では現在、スマートエネルギー都市づくりの一環として、太陽光発電設備の設置を進めています。グリーンボンドはその重要な財政的な基盤となっています。他にも、「河川の水辺空間の緑化」、「都市公園の造成」などといった自然環境の保全事業や、豪雨対策として進められている環状七号線地下の広域調節池整備などに見られる、気候変動への適応事業等々、幅広い分野や行政プロジェクトが、本環境債の資金対象となっています。

 

高い人気で購入件数は例年5000越え

現在東京グリーンボンドは、個人向けと機関投資家向けの2通りで発行しており、その対象は、個人向けの場合東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県に在住、在勤・在学者向け、同エリア内に主たる事務所・営業所を有する法人・団体です。また、機関投資家向けは、大口の法人投資家を対象としています。これまでに発行した個人向け東京グリーンボンドは期間(満期)5年で発行額は毎年約100億円。毎年の購入件数は5000件を超え続けており、当初の想定を大幅に超えた関心と評価とを集めています。機関投資家向けは5年と30年の2年限で発行しており、一般の事業会社、金融機関、各種団体など幅広い投資家からの支持を獲得しています。これらの事情をうけて、発行枠を2019年度の100億円から2020年度には200億円まで拡大しました。

 

若年化する購入層、投資目線の変遷も

40歳未満の若い世代も購入

どのような人達が東京グリーンボンドを購入しているかという点も興味深いところです。個人向けの購入金額で多いのは、日本円で概ね10万円~100万円程度です。購入者は一定の資産を築いている高齢者が中心ではあるものの、40歳未満の若い層も目立ってきています。発行側も、若年層の関心を高めるべくPR動画を作成したり、証券会社と協力してSDGs債のセミナーを開催するなど、若い世代向けの販促活動を行ってきましたが、これが功を奏しているとも言えるでしょう。

 

東京グリーンボンドの外貨建て戦略

また、東京グリーンボンドのもう一つの特徴はこれが外貨建て債券であるという点です。2017、2020年度は豪ドル、2018年、2019年度は米ドル建てによる起債です。これは金利を理由とするものです。国内においては超低金利傾向が依然続いており、円建てによる好金利の提供は難しい環境にあると言わざるを得ません。対して、米ドルや豪ドル建ての場合は一定の金利を確保することができるのです。(2020年度は米国で大統領選があり、先行きが見えにくかった背景もあり、豪ドル建てとなりました。)

 

「投資」における政治や環境への関心の高まり

ただし、外貨建てによって金利を保証したところで、それでも東京グリーンボンドの利率は0.41%(税引き前)であり、同じ期間5年の個人向け国債(0.05%、税引き前、円建て)よりは高い利率ではあるものの、為替リスクを考慮するとそれだけで人気の理由を説明することは厳しいのが正直なところです。金利以外の東京グリーンボンドの人気の秘密は、次の3つの点にあると考えられています。

まずは、東京都という場所に根差した地元愛によるものという点。すなわち、「都」へのファンが多いということにあります。「自分のお金を、目に見える形で、地元に役立てたい」と考える人が沢山居るということが、東京グリーンボンドを支えていると言えるでしょう。

次に、資金用途が今世界的にも関心事である「環境」についてのものであるという点です。世界中の投資でも、環境、社会、ガバナンスを重視して投資先を選ぶESG投資が急進を遂げています。グリーンボンドだからこそ購入の決め手になる、という人は多そうです。同時にこれは、購入者が資金用途について常に関心を払っているということでもあります。

発行後、毎回アンケートを実施していますが、「東京グリーンボンドに何を希望しますか」との質問には常に「資金の使途について知りたい」という回答が上位に入っています。
(参考:民間から300億円集めた東京グリーンボンドの舞台裏|新・公民連携最前線|PPPまちづくり

東京グリーンボンドの購入理由

信用力の高さ 40.10%
資金使途への共感 36.30%
都の政策の応援 23.90%

発行意義にどの程度共感したか?

共感した(「大いに共感した」「少し共感した」含む) 92.10%

東京グリーンボンドへの希望

資金使途について知りたい 45.60%
定期的に発行して欲しい 25.40%
債券の安全性について知りたい 24.20%

(図表:民間から300億円集めた東京グリーンボンドの舞台裏|新・公民連携最前線|PPPまちづくりより値を抜粋して作成)

 

グリーンボンドは新時代の切り札となるか

「需要があるから発行」は危険

2020年には、新たに長野県と神奈川県もグリーンボンドを発行。世間のESG投資やSDGsに対する関心も高いことから、環境債が新たなファイナンス手法として期待を寄せられてもいます。また、市民が政治に関心を持つチャネルが増えたことも利点の一つと言えるでしょう。

ただ、発行を決めるには様々な複雑なフローや手間を経なくてはならず、「需要があるから」といった理由のみで発行を決めるのは、少し早計と言えるでしょう。

例えば、発行に当たっては、通常の信用格付けに加え、国際資本市場協会(ICMA)が定めたグリーンボンド原則に則り、外部評価を受けることが推奨されます。東京グリーンボンドは、海外の評価機関から「原則に適合」と認められましたが、評価項目は多岐にわたり、評価を受けるまでの過程では、紆余曲折もありました。

(参考:民間から300億円集めた東京グリーンボンドの舞台裏|新・公民連携最前線|PPPまちづくり

 

グリーンボンドの発行フロー例と課題

たとえば、東京グリーンボンドには、以下のように発行フローが層状に展開しています。

1.発行準備の段階…発行計画の検討、調達資金の充当対象プロジェクトとプロジェクト評価・選定プロセスなどの検討、見込まれる環境効果の算定、格付け取得、引受会社の選考、外部機関による評価の取得、IR、ドキュメンテーション、プレ・マーケティング

2.債券発行の段階…発行条件(発行額、利率等)の決定、投資家からの払い込み

3.債券発行後…プロジェクトの実行、環境効果の算定・レポーティング、投資家への利払い・償還 など。

(参考:民間から300億円集めた東京グリーンボンドの舞台裏|新・公民連携最前線|PPPまちづくりよりフローを抜粋)

また、グリーンボンドは売れば終わりではなく、プロジェクトを通して得られた社会的リターンに関する説明責任も有しており、既にある人気にあぐらをかくことなく、他の自治体と情報共有、連携をとりつつ、グリーンボンドのあるべき姿を探っていく必要がありそうです。

 

「吉浦宏美」氏について

東京都財務局主計部公債課長

1998年東京都入都。産業労働局商工部商工施策担当課長、交通局総務部お客様サービス課長などを経て、現職。「東京グリーンボンド」をはじめ、都債の企画、発行などを担当。

(参考:民間から300億円集めた東京グリーンボンドの舞台裏|新・公民連携最前線|PPPまちづくりよりフローを抜粋)

 

■本件に関するお問い合わせ

元のインタビューはこちら
財務局のHP:https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/

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