収穫30%増、遺伝子組み換えイネが食料・環境問題解決に繋がる?

2021年2月3日

遺伝子組み換えの技術を用いてイネの収穫量を30%以上増やすことができたと、名古屋大などのチームが2月2日付の英科学誌に発表しました。主要研究者として木下俊則教授(植物分子生理学)らが名を連ねており、今後の食糧・環境問題解決の糸口となりそうです。

 

イネの収量が30%以上増加

国立大学法人東海国立大学気候 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の木下俊則教授、大学院理学研究科のヂャン・マオシン研究員、南京農業大学資源環境科学学院のヂゥー・イーヨン教授らは、イネの1つの遺伝子(細胞膜プロトンポンプ)を増加させることによって、根での養分の吸収と気孔の開口とを同時に高める技術を開発し、野外水田におけるイネの収量を30%以上増加させることに成功しました。

 

【補足】「イネ」とは?

トウモロコシやコムギとともに世界三大穀物の一つで、世界中の30億人の主食となっており、人類の食糧の25%を占めており、日本では収穫物の「米」が馴染み深いものです。

 

研究のこれまでとこれから

本研究グループによるこれまでの研究によって、「根の養分吸収と気孔開口においては細胞膜プロトンポンプが共通して重要な役割を果たす」ということがわかっていました。そうした経緯から、一つの細胞膜プロトンポンプ遺伝子の発現率を高めた“過剰発現イネ”を創り出したところ、根の窒素養分吸収が20%以上、光合成活性が25%以上増加。そして、4か所の異なる野外の隔離水田農場における収量評価試験においてはイネの収量がなんと30%以上も増加するということが明らかになったのです。本研究成果は根の養分吸収と気孔開口とを同時に活性化させるまさに画期的な技術となり、今後様々な実用作物での応用が期待されるでしょう。(本研究成果の掲載は2021年2月2日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」にてオンライン公開されたということです。

 

【補足】「細胞膜プロトンポンプ」とは?

ATP(アデノシン三リン酸)をエネルギーとして細胞の内側→外側へと水素イオンを輸送する一時輸送体です。根における無機養分の取り込みに重要な役割を果たしており、また気孔孔辺細胞においては波及的に気孔開口を引き起こすことも知られています。

 

研究内容を詳しく解説!

これまでの研究によって、「根での無機養分取り込みと気孔開口において、細胞膜プロトンポンプが共通して重要な役割を果たすことは明らかになっていました。


(画像:http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20210203_itbm1.pdf よりキャプチャ作成)

 

そこで、イネの一つの細胞膜プロトンポンプ遺伝子であるOSA1の発現量を増加させた“過剰発現イネ”を作出。表現型の解析を行いました。その結果、プロトンポンプ過剰発現イネでは野生株と比べて根における無機養分の吸収が20%以上も高まっており、光によって開口した気孔の割合も25%以上増加。


(画像:http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20210203_itbm1.pdf よりキャプチャ作成)

 

さらに詳細な解析では、プロトンポンプ過剰発現イネでは二酸化炭素固定量(光合成活性)が25%以上高まり、実験室内での水耕栽培では18-33%乾燥重量(バイオマス)が増加することが判明しました。


(画像:http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20210203_itbm1.pdf よりキャプチャ作成)

 

さらにここで、野外の環境においてもこの技術の効果が見られるかどうかを検証するために、2年間にわたり計4か所の異なる隔離水田圃場において収量評価試験を実施。結果、野生株と比べてイネ収量が30%以上増加することが明らかになりました。さらに、興味深いことですが、プロトンポンプ過剰発現イネでは、施肥する窒素量を半分まで減らしても、通常の窒素量の野生株よりもイネ収量が多いことも明らかになりました。


(画像:http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20210203_itbm1.pdf よりキャプチャ作成)

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications

論文タイトル:Plasma membrane H+-ATPase overexpression increases rice yield via simultaneous enhancement of nutrient uptake and photosynthesis(細胞膜プロトンポンプの過剰発現は養分吸収と光合成を同時に促進することでイネの収量を増加させる)

公開URL:https://www.nature.com/articles/s41467-021-20964-4

 

WPI-ITbMとは?

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2021年に文部科学省の世界トップレベル拠点プログラム(WPI)の一つとして採択された機関で、他には東北大学、東京大学、京都大学などが拠点を持っています。名古屋大学の本拠点では、大学の強みであった合成化学、動植物科学、理論科学を融合させて新たな学問領域である「植物ケミカルバイオロジー研究」、「化学時間生物学(ケミカルクロノバイオロジー)研究」、「科学駆動型ライブイメージング研究」の3つの上位研究を進めています。ITbMでは、精密にデザインされた機能をもつ分子化合物を使用して今までは明らかにされてきていなかった生命機能の解明を目指すとともに、化学者と生物学者が隣り合わせで研究をおこない、融合研究を行うことが出来る「ミックス・ラボ」という特殊な体制も特徴的です。化学×生物学の融合領域で新たな研究分野を創出し、トランスフォーマティブ分子の発見と開発を通じて、社会が直面する環境問題、食糧問題、医療技術の発展といった様々な課題へと取り組んでいます。
(参考:http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20210203_itbm1.pdf

公式HP:http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/

 

本研究の高評価ポイント4つ

1.細胞膜プロトンポンプの発現を高めたイネの過剰発現体において、根の養分吸収、気孔開口、光合成、成長が促進されることを“世界で初めて”証明しました!

2.4か所の野外圃場(農産物を育てる場所)で、イネの収量が30%以上増加するということを示しました!

3.本研究は植物の成長と収量を高める技術の革新的な解決策であり、様々な実用作物での応用が期待されます!

4.地球温暖化の原因となっている二酸化炭素、環境汚染の原因となっている肥料の削減などが期待されます!

 

木下教授によるコメントも

研究を先導した木下俊則教授(植物分子生理学)は本研究の成果をうけて、今後の展開を次のように話しています。

光合成に使う二酸化炭素(CO2)と、養分の吸収を同時に増やした。この手法を使えば食料危機や、CO2による温暖化、肥料の使いすぎによる環境汚染の解決につながるかもしれない。他の植物でも収穫量を増やせないか試したい

 

■会社概要

法人名:名古屋大学トランスフォーマティブ姓名分子研究所
代表者:伊丹 健一郎(拠点長、主任研究者、教授)
所在地:〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町ITbM棟
設立年:2012年
URL:http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/index-ja.php

 

■本件に関するお問い合わせ

メールアドレス: office@itbm.nagoya-u.ac.jp
電話番号: 052-747-6843
FAX: 052-789-3240

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